製造業を中心に品質管理の代名詞となっている国際規格の「ISO9001」。取得している企業は国内で5万件に近いと言われています。
ISO9001は専門の認証機関が、その会社の品質管理状態を見て「この工場は大丈夫!」とお墨付きをくれる認証です。
でも1回取得すると、そのあと定期的に審査を受ける必要があります。(基本、毎年^^;)
毎年、ISO9001審査に向けて準備するワークは大変です。でも、審査員が確認する項目は、だいたい一緒です。
この記事では、製造プロセス(現場)にフォーカスをあてて、審査の受け答えに必要な具体的な準備を解説していきます。
僕はこれまで10回以上、審査を受けてきましたが、毎年同じものを準備して審査に通ってますので、的外れではないと思います^^
- ISO9001審査を受ける製造現場を担当される方
- ISO9001審査をこれから受ける経験の浅い方
ISO9001審査に準備するもの
ISO9001審査を受けるにあたって、会社内は幾つかのプロセスに別れていると思います。製造業だとこんな感じだと思います。
いろんなプロセスがありますが、製造プロセスはどんな業種でも必ずあります。ISO9001では、現場審査を含めて全体の25%位が製造プロセスの審査にあてられます。
実際にモノを作る製造現場(製造プロセス)は、当然ですが重要視されてます。では、具体的に準備するモノの紹介です。
- 品質マニュアル
- 組織表
- タートル図
- 業務の内容を説明するフロー図
- 品質目標
- クレームや品質事故の報告書
- 教育訓練の記録
- 改善活動の事例
- 内部監査の結果
- 生産計画と実績
- 現場の5S
すでに気が滅入りそうですが、それぞれ説明していきます(^^;;
品質マニュアル

品質マニュアルは、会社共通で作成されています。審査を受ける企業が品質管理を行うために実践することを書いた(宣言した)文書です。
一般的には、ISO9001の要求事項(原文)を引用しているケースが多いと思います。もしくは不要な部分をカットしたものだと思います。
長くて日本が難しい文書ですが、覚える必要はありません。必要なのは、プロセスの相関図と役割が書かれたページです。(どこかに書かれてるはず)
プロセスの相関図
プロセスの相関図は、製造プロセスが他のどのプロセスと関係があるのか?を説明するためにあります。このあと出てくるタートル図にも関係があるので、相関図は説明できるように把握しましょう。こんな感じの図です。

製造プロセスと他のプロセスがどんな関係にあるかを示しています。製造プロセスは、いろんな所から支援を受けて成り立っています。
プロセスの役割
プロセスの役割は、ISO9001の要求事項に対して、「この要求事項はどのプロセスが担当してます」を明確にした表です。
事例を紹介するとこんな感じの表ですが、覚える必要はありません。
分類 | 小分類 | 製造 |
4. 品質マネジメントシステム | ||
4.1 一般要求事項 | ○ | |
4.2 文書化に関する要求事項 | 一般 | ○ |
品質マニュアル | ○ | |
記録の管理 | ○ | |
5. 経営者の責任 | ||
5.1 経営者のコミットメント | ||
5.2 顧客重視 | ||
5.3 品質方針 | ||
5.4 計画 | 品質目標 | ○ |
品質マネジメントシステムの計画 | ○ | |
5.5 責任、権限及びコミュニケーション | 責任及び権限 | |
管理責任者 | ||
内部コミュニケーション | ||
5.6 マネジメントレビュー | 一般 | ○ |
マネジメントレビューへのインプット | ○ | |
マネジメントレビューからのアウトプット | ○ | |
6. 資源の運用管理 | ||
6.1 資源の提供 | ||
6.2 人的資源 | 一般 | ○ |
力量、認識及び教育・訓練 | ○ | |
6.3 インフラストラクチャー | ○ | |
6.4 作業環境 | ○ | |
7. 製品実現 | ||
7.1 製品実現の計画 | ○ | |
7.2 製品関連のプロセス | 製品に関連する要求事項の明確化 | ○ |
製品に関連する要求事項のレビュー | ○ | |
顧客とのコミュニケーション | ||
7.3 設計・開発 | 設計・開発の計画 | |
設計・開発へのインプット | ||
設計・開発からのアウトプット | ||
設計・開発のレビュー | ||
設計・開発の検証 | ||
設計・開発の妥当性確認 | ||
設計・開発の変更管理 | ||
7.4 購買 | 購買プロセス | |
購買情報 | ||
購買製品の検証 | ||
7.5 製造及びサービス提供 | 製造及びサービス提供の管理 | ⚫ |
製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認 | ⚫ | |
識別及びトレーサビリティ | ⚫ | |
顧客の所有物 | ⚫ | |
製品の保存 | ⚫ | |
7.6 監視機器及び測定機器の管理 | ○ | |
8. 測定・分析及び改善 | ||
8.1 一般 | ○ | |
8.2 監視及び測定 | 顧客満足 | ○ |
内部監査 | ○ | |
プロセスの監視及び測定 | ○ | |
製品の監視及び測定 | ○ | |
8.3 不適合製品の管理 | ○ | |
8.4 データの分析 | ○ | |
8.5 改善 | 継続的改善 | ○ |
是正処置 | ○ | |
予防処置 | ○ |
●:メインに対応 ○:サブで対応
製造プロセスが何をメインに、何をサブで担当しているか把握しておきましょう。ここで紹介する準備事項で、ほぼ網羅(もうら)できると思います。
組織表

製造プロセスの人数、業務内容、連絡体制などが説明しやすいものが組織表になります。全体の人数と業務別の人数、派遣社員比率などをあらかじめ集計しておきましょう。
業種によっては、夜勤があるかも知れません。その場合、夜勤の責任者、非常事態が発生した時の連絡ルートもよく質問されます。
いきなり聞かれると困惑するので、緊急連絡網のようなものを持っておくと便利です。
タートル図
タートル図じゃなくても大丈夫ですが、プロセス同士のつながりや製造プロセスで行っている全体像を説明するのにタートル図は最適です。
タートルズの事例はこんな感じです。

製造プロセスに何がインプットされて、何をアウトプットしているのか?
製造プロセスでは、何のツールを使って、その良し悪しをどのように評価しているのか?
全てタートル図で説明することができます。普段の業務であまり使うことはありませんが、第3者への説明には有効ですので、作っておいて損はありません。

業務を説明するフロー
審査員の方は、始めて会社を訪れるので、何をしている会社か知らないことがあります。新入社員の教育用資料などで使っている作業の流れやどんな工程があるかを説明できる資料を準備しておいた方が無難です。
(経験豊富な方は聞かれませんので、ムダになることもありますが^^;;)
品質目標
会社の品質方針をもとに、経営者が品質の目標をかかげます。その後、経営者の目標を達成するために、ブレイクダウンした製造プロセスの目標が立てられます。一般的には、バランススコアカードと呼ぼれるものです。
TOPの目標設定に対して、具体的な活動アイテムを作ります。各アイテムに数値目標を決めて、実績を確認していくものです。
こんな感じの表です。

バランススコアカードを見れば、プロセスが有効に機能しているかが分かるため、製造プロセスに限らず、机上審査ではバランススコアカードを中心に進められることは良くあります。
目標が達成できていなければ、そのプロセスが機能していない可能性があります。目標を達成できていない箇所は、その理由を聞かれると思って準備が必要です。特にお客様に迷惑をかけるクレームや品質事故の内容は必ず聞かれます。
クレームや品質事故の報告書
審査対象となる期間で発生したクレームの報告書は説明を求められます。製造プロセスであれば、活動目標の指標にクレーム件数や発生率があると思います。
バランススコアカードと紐付いた案件の準備が必要です。審査では、クレームの内容は関係なくて、きちんと問題解決できているか?が重要になります。
報告書の様式はいろいろあると思いますが、おすすめは8Dレポートです。
8Dレポートの様式は、問題解決のアプローチとして、審査員は皆さん知っている内容なので話がスムーズにできます。「8Dレポートをお客様に提出しています!」と言っただけで信頼度はかなり上がります。
- D0:不具合の情報、お客様からの情報整理
- D1:問題解決チームの結成
- D2:問題の理解(不具合の観察)
- D3:暫定の処置
- D4:根本原因の調査・特定
- D5:是正処置
- D6:是正処置の効果検証
- D7:再発の防止
- D8:お客様の承認(チームの解散)
報告書の作り方の問題だと思いますので、参考にしてみて下さい。
教育訓練の記録
新入社員が1人作業できるまでの教育の仕組みと記録になります。製造現場だと、OJT(オンジョブトレーニング)が多いと思いますが、準備するものは4つです。
- 教育・認定のフローが書かれた文書
- 教育の記録(筆記試験や実技試験の結果)
- 作業者のスキルマップ
- 作業者の工程配置
スキルマップは、要求事項にある「力量」に該当する部分になります。
1人1人にどんなスキルがあるのか? 今後どう伸ばしていくのか? の説明にスキルマップは便利です。
また、必要な人員を確保しているか? の問いに対して、工程別の人員配置(人数)を説明できるものが必要です。1人しか居ない工程があると、その人が休んだ時に困りますよね(^^;
改善活動の事例
要求事項8項の「プロセスの監視と製品の監視、継続的改善」に該当します。
説明しやすいものは、歩留り(不良率)の改善や不適合ロットの改善事例です。でも、データの分析結果に基づいていれば、テーマは何でも大丈夫です。
タートル図の指標やバランススコアカードのアイテムと紐付いたアイテムの方が良いです。その方が、改善活動がきちんと機能していると説明できるからです。PDCAがまわっていることの証明ですね^^
内部監査の結果
ISO9001を取得していると、内部監査は年1回実施することになっています。
内部監査プロセスで確認されますが、製造プロセスでどんな指摘をされたか?、指摘に対してどう処置したか? を聞かれることがあります。
内部監査報告書の内容をそのまま説明するだけでOKですので、予め報告書を把握しておきましょう。(1年前のことなので結構忘れてます^^;:)
生産計画と実績
最終的に品質の高い製品をお客様に届けることが製造プロセスの目的です。
要求のあった数量を、きちんと出荷できたかを示す指標として、生産実績が必要です。
予定通り達成できていないと、人員を確保できていない? トラブルが多かった? 設備が故障した? など原因の追求が必要になることがあります。
計画通り製品を届けていることを証明するものを1つ準備しておくと安心してもらえます。
現場審査の準備
現場審査では、作業者がきちんと作業できているかを確認されます。
基本的には、工程QC図(QCSフローと呼ばれることもあります)に沿って、標準書と現場作業を照らし合わせて確認されます。
でも、経験則ですが、僕は次のことが大切なポイントだと思っています。
- 現場の整理・整頓
- 現場がきれいに保たれているか
- 製品、材料の置き場に表示があるか
- 作業者がスムーズに動いているか(ムダがない)
- 作業標準書は分かりやすいか
- 作業標準書通りの作業ができているか
- よく挨拶しているか
現場の見た目(5S)ができていれば、ほぼ安心してもらえます。
審査員は、現場がきれいであれば問題ないことを、これまでの経験上知っているからです。逆に現場が乱雑だと、作業者に教育できていなかったり、標準が不足していることは明らかです。
まとめ
ISO9001の審査で、製造プロセスが準備することはいっぱいです(^^;;
繰り返しになりますが、
- 品質マニュアル
- 組織表
- タートル図
- 業務の内容を説明するフロー図
- 品質目標
- クレームや品質事故の報告書
- 教育訓練の記録
- 改善活動の事例
- 内部監査の結果
- 生産計画と実績
- 現場の5S
最初は時間がかかるかも知れませんが、2回目以降は更新 or 差し替えでOKなので時間も短縮できます。1度雛形を作っておくと後々楽になっていきます。
ISO9001審査は大変ですが、頑張って乗り切っていきましょう!^^
長くなりましたが、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました^^