モノ作りをしていると「現場(工程)を3σ管理して不良品を作らないようにしよう!」と言われることがあると思います。
そんな疑問に分かりやすく回答します。
- 3σ(シグマ)管理という言葉を始めて聞いた人
- SPC管理を今ひとつ理解できていない人
3σ管理の前提条件
まず最初に3σ管理をする為の1つの条件を説明します。
その条件は、管理しようとする現場や工程、データが「安定している」必要があるということです。
具体的には工程能力Cpkが1.33以上ないと3σ管理をする意味はあまりありません。「なぜ、工程能力Cpkが1.33以上必要か?」も合わせて説明していきます。
3σ(シグマ)管理って何?

この記事をご覧の方は、会社員の方が多いと思いますので、会社への出社時間を具体的な例として考えてみます。
下のグラフは、過去270日の出社時間にσ(シグマ)値を計算して、1~6σの時間に線を引いたものになります。

このデータのバラツキ=σ表が下になります。

3σ管理とは、出社時間を継続して7時32分から7時51分の間になるようにコントロールするを言います。
この目的は、規格(この場合は8時)から外れることが無いように、規格の内側に管理線(コントロールする線)を作って、もし管理線の外に出たら、再び管理線の中に入れようと言うものです。
マイナス側の3σ値を下限管理線、プラス側の3σ値を上限管理線と言います。
一般的にLCL・UCLと略称で表現されることが多いです。
- 下限管理線=Lower Control Limit=LCL
- 上限管理線=Upper Control Limit=UCL
この管理を、「統計的工程管理=SPC管理」と呼びます。
SPCは、Statistical(統計)Process(工程)Control(管理)の頭文字です。
具体的な工程管理

実際のデータを管理する場合は、管理図を作成します。具体的に書くと、下のような出社時間のデータを1日ごとの折れ線グラフにしたものになります。
データ推移に過去の実績から計算した平均・UCL・LCLの線を引きます。決められた規格の線を入れて出来上がりです。

この管理図に次の出社時間を入力して、UCLとLCLの範囲にあるかを確認していきます。
3σの確率が99.7%なので理論上1,000回繰り返すと3回は外れることになります。3σ外れと呼ばれますが、その場合は外れた原因を調査します。
出社時間であれば、「交通事故に巻き込まれた」とか「寝坊して家を出る時間が遅くなった」などが考えられるかも知れません。その原因を対策して次から外れないようにすることで、安定したデータが維持していきます。
工程能力が1.33以上必要な理由
下の表は、工程能力の数値とσ値、規格からの外れる確率の一覧表です。
工程能力 | σの範囲 | 規格から外れる確率 | 状態 |
0.33 | ±σ | 31.7% | 作ったらダメ |
0.67 | ±2σ | 4.55% | 危険な状態 |
1.00 | ±3σ | 0.269% | 不安定な状態 |
1.33 | ±4σ | 0.0063% | 安定している |
1.67 | ±5σ | 0.000057% | 十分安定している |
2.00 | ±6σ | 0.00000019% | まったく問題なし |
工程能力が1.00の場合を正規分布のグラフで表すと

上限・下限の規格と管理線が同じ位置にきてしまいます。
「管理線を外れる=規格を外れる=不良品」になります。不良品を作る前にコントロールすることができませんので、工程能力1.00では管理図が作成できない為、工程能力1.33以上が必要になるのです。
工程能力Cpkが1.33以上ある場合に3σ管理は効力を発揮します。
管理図の作り方

具体的に管理図を作ってみましょう。管理図は、過去のデータを使って作成します。
データの数が多いほど正確な管理図を作ることができます。データの数を一般的に「n数」と呼ぶことが多いです。経験から言うと、データの数はn=100位は必要だと思います。
管理図は5つの線と実際のデータでできます。一般的な管理図は下になります。

5つの線の意味は、
USL | Upper Spec Limit | 規格の上限値 | レッド(アウト) |
UCL | Upper Control Limit | 管理する上限値 | イエロー(警告) |
CL | Average | 平均値 | |
UCL | Lower Control Limit | 管理する下限値 | イエロー(警告) |
LSL | Lower Spec Limit | 規格の下限値 | レッド(アウト) |
※AveをCL(Center Line)と呼ばれることもあります。
UCL、LCLは過去のデータのバラツキから計算されます。一般的には、平均値に3σ(シグマ)をプラス、マイナスした数値を採用します。
0.3%ですので「めったにないけど、ごく稀に起こる」現象ですね。外れてはいけない線(規格線)の上限と下限、過去データの平均線を入れて土台が完成です。
このグラフに次のデータを1番右に追加します。

新しく追加したデータが品質的に問題ないのか?を管理図を見て判断できます。
管理図の見方
3つデータ(①・②・③)を管理図に入れてみました。

3σ線の内側にありますので、過去のデータから大きな変化なく、「問題なし」と判断します。
規格線は越えていませんが、3σ線の外側になりました。これはめったにないことが起こった!ことになりますので、「何か問題があるかも知れない」と考えます。
規格線の外側にあり、あってはいけない状態です。「すぐに対策が必要!」です。
管理図にデータを入れるだけで、今の状態が 良いのか? 悪いのか? 簡単に判断できます。
傾向管理の使い方
管理図の見方で3つの状態(データ)を紹介しました。でもデータがいきなり規格を外れたり、管理を外れても困りますよね。
と言う考えから生まれたのが、傾向管理です。
過去のデータの動きから、次のデータを予測していきます。傾向管理には、対象となるデータの種類によって、様々な形がありますので、一般的なものを3つ紹介します。
3σ外れ
管理図の見方で紹介したデータ②の状態です。1番代表的な傾向管理です。この次、規格を外れそう!という傾向があります。

◯点の連続上昇 or 下降
3σ線の内側にあるものの、どんどん上昇していっています。この次、管理線の外に出そう!という傾向があります。
一般的には「◯点に7点連続」を採用するところが多いと思います。

◯点の片側連続推移
3σ線の内側にあって、連続の上昇・下降傾向もありません。一見、問題ないように見えますが、ずっと平均線の上にあります。
平均線も過去のデータから計算していますので、ずっと平均線の上にあることは、全体的にデータを押し上げる何らかの要因があるのでは?と考えられます。
一般的には「◯点に7点連続」を採用するところが多いと思います。

SPCはコアツールの1つ
SPC(統計的工程管理)は、自動車の国際品質規格IATF16949のコアツールの1つになっています。
不良品を発生させる前にコントロールする考え方は、故障してはいけない自動車部品のモノ作りに必要だからです。
- APQP(先行製品品質計画)
- FMEA(故障モードと影響解析)
- CP(コントロールプラン)
- MSA(計測システム解析)
- SPC(統計的工程管理) ※この記事
- PPAP(生産部品承認プロセス)
興味のある方は、それぞれ個別記事にジャンプしますので参考にしてみてください。
IATF16949に欠かせないコアツールの使い方を解説したnoteを作成しました。これまで書いてきた内容を体系立てて図解した内容となっています。
有料記事となりますが、見て頂けると嬉しいです(冒頭部分は無料です)
まとめ
- 3σ管理とは、過去のデータから規格を外れないようにコントロールする手法です
- 管理線は、過去データから計算された3σの数値を使用します
- 3σ管理を行うためには、データの工程能力Cpkが1.33以上必要です
- 管理図を使うと、今の現場が良い状態のか?悪い状態なのかが判断できます
- 傾向管理を行うと、状態が悪くなる予兆を捕まえることができます
統計的工程管理(SPC管理)を使うと不良品を発生させる前に、工程をコントロールすることができます。現場を管理する有効な手法になりますので、理解を深めてぜひ実践してみて下さい。
本記事は以上となります。最後までお付き合い、ありがとうございました。